動き出した象を追いかけて

SFCで学び、DeNAで働き、医学生。

医学部は職業訓練校である

医学部はつくづく職業訓練校だなと感じます。
職業訓練校というとポジティブなイメージが生まれにくいですが、普通の4年制の大学を卒業している身としては、ポジティブな面もネガティヴな面も感じています。

職業訓練校だと感じる点

職業訓練校といっても一般的な定義とは異なりますが、どのレベルの医学部であろうと入学してしまえば、誰しもが医師になるために必要なものを文部科学省のレギュレーションに沿う形で学んでいくという意味で職業訓練校なのだと感じます。
大学によって輩出したいと考える人材像に多少の違いがあり、ここの部分が教養科目や講義体に反映されますが、どこの医学部でも学ぶことはほとんど同じです。
ここについてよく思考せずに「視野が狭い医師が生まれる」などと批判する人もいますが、
  • 医療は需給バランスがある程度予想できる社会インフラである
  • 医療行為には大きなリスクが伴うため、リスクを抑えるためには医師の質的担保が重要である
ことを踏まえれば、そうした教育体制に収斂するのは非常に合理的です。
医師の人間性を変えたいのならば、学業のみならず豊富な経験を積んだ人間を優遇するなど、入学の仕組みを変えたほうが効果があると考えます。
また、職業訓練校と言っても医学知識を学ぶだけではなく、
  • 人間性(患者や他の医療職とのコミュニケーション)
  • 学習方法(目まぐるしく進展し、難解で膨大な医療知識をどう学び続けるか)
  • 思考力(PBLなどを通じた知識に基づく仮説検証)
などについても学ぶことを誤解のないように付け加えておきます。

職業訓練校に優秀な層が流れ込むのは社会の損失なのか

「職業訓練校なのに優秀な頭脳が流れ込んでいるという」批判もあります。
これについては一部理解出来ますが、医療技術は驚くべきスピードで進展しており、覚えるべき量やその難易度がますます高くなっていることから医師になる層の優秀さはある程度高くなければなりません。
確かに医師になることは一般的に社会の成長をぐっと押し上げるものではありませんが、医師の質が下がればそれこそ社会が弱くなりますし、一部には研究医として目覚ましい成果を上げる方もいます。
この点については、優秀な層の配分方法ではなく、国家として優秀な層のボリュームをいかに多くするかの議論をしていくほうが有益です。

ポジティブな面

他の大学も体験した身としてポジティブに感じているのは、未来がほぼ定まっているゆえに、未来をより深く具体的に考えられるという点です。
医学部に入学した学生の多くは臨床医として働くことになります。臨床医という枠組みがあるからこそ、どの診療科に進もうか、どんな医師になろうか、医師としてどのようなキャリアを歩もうかといった具体的なことを考えやすいです。
一方で、普通の大学(一部の学部を除く)では、なんの枠組みがないため、何をやりたいのかわからない、何が向いているのかわからない状態で、漠然としすぎているがゆえに何のアクションも起こせない、選択肢が多すぎるがゆえにどれも中途半端で終わってしまうというようなことが自身の経験からもありました。
特に文系学部ではその傾向が強く、社会に出る時にはとりあえず人気企業を志望して、たいして勉強せずに社会に出るというようなパターンが多いように思えます。
とにかく「枠が与えられることで、その先が見えやすい」のは良い点だと感じています。(これは負の面もあるので、次に考えていきます。)

ネガティヴな面

負の面は大きく2つ、閉じた世界しか知らないこと、他の選択肢を知る前にキャリアをほぼ選択してしまうことです。
医学部に入ってから実感するようになりましたが、医学部は閉じているだけでなく、その中だけで暮らせてしまうコミュニティです。特に私立の医学部は国試合格に重きを置いている感があり、外部との交流はほとんどなく、医師の卵を育てることにフォーカスしています。そのような状況ではなかなか豊かな人間性は育まれません。
次に高校生の間にキャリアを決めてしまう点です。自分が高校生のときはどのような生き方がしたいのか分からず大学に進学しましたし、普通の高校生もその時点では明確なキャリアを描けていることは稀有だと思います。普通の大学とは異なり医学部に入ってしまえば、あまり考えることもなく多くは臨床に進みます。これではミスマッチが起きてしまいます。

最後に

医師は叩かれることが多い職業です。この背景には医師という職業が、万人にとって興味がある命に関わるものでチェックが厳しく入ることだけではなく、社会的ステータスが比較的高い職業であることから妬みのような感情が生まれているのではないかと感じています。
しかしながら、多くの医師は勉強量も多く、日々責任感を感じながら生活しています。なので、視野が狭いとか、悪どい医師ばかりをメディアで目にしますが、日々努力をしている人が大半なのではないかと思います。なので、叩くだけではなく、医療を少しずつ知ってもらうことでお互いが尊重しあう方向に向かえばと思っています。