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動き出した象を追いかけて

SFCで学び、DeNAで働き、医学生。

医者と大局観

「医者は視野が狭く大局的な視点が持てていない」といった意見をよく耳にします。
もちろん人によって異なるものの、個人的には間違っている意見ではないと思いますし、医療への見識がない人のほうがそのような意見を持っている印象があります。
今回はこの点について、普通の大学を出て、民間企業で働いた経験のあるひとりの医学生の立場から考えてみたいと思います。

医者には大局観が必要なのか

そもそも医者に大局観が必要なのかという話です。医者は専門職であって大局観は必要ないのではないかという意見も存在するのですが、どう考えたらそのような意見が出てくるのか不思議で仕方ありません。
必要だと思う理由をザッと挙げてみると、
  • 人間として医療者として必要な倫理観を育むには狭く偏った価値観ではなく、広い視点や豊かな人生観が必要である
  • 医療提供者のなかでリーダーシップを発揮するうえで、一歩進んだ視点や多様な価値観を受け入れられる素養が必要である
  • 苦境にある日本の医療において、個別最適ではなく全体最適を考え、未来を見越して行動する必要がある
というようなことが考えられます。
大局観がなければ、医療倫理が育まれないし、医療チームを動かすリーダーシップも欠如するし、高齢化のこの時代に医療の個別最適ばかり考えるというわけです。

大局観が育まれないワケ

医学生としての生活を始める前は、医者に大局観が育まれにくい理由がよくわかりませんでしたが、今ではなんとなく分かるような気もしています。
思い浮かぶ限りで、ざっと羅列してみると、
  • 医学部のクラスは100名強が一つの部屋で6年間一緒に学ぶ形式(中高の延長のような形)
  • 医学部は大学病院に付属していることが多く、他学部との交流はとても少ない
  • 医学部のみの部活があり、ほとんどの学生がそこに所属し、部活内の上下左右の繋がりがとても強い
  • 医学部のカリキュラムは膨大で、大局観を育むための講義(歴史、社会学、哲学、リーダーシップ論、経営学など)をしている余裕はほとんどない
  • そのような理由から大局観の必要性に気づくことはないし、医学生の間は勉強と部活に追われ、医者になっても目の前の臨床に追われてしまう
こうした背景から狭いコミュニティで生活することな多く、なかなか大局観が育まれにくいように思えます。しかしながら、患者からしてみれば医者にとって技術と同レベルで人間性も大切です。
アメリカのメディカルスクールでは医学部は大学院のような位置付けで、一般の大学を卒業してからでないと入学できません。また、入学するためには人間性や大局観を有していることが重要で仕事やボランティアのような社会経験が合格の鍵になってきます。
日本でも学士編入というシステムが徐々に広がってきましたが、学士編入を行っている大学でま経験よりも学力が問われる印象です。

最後に

嫌悪感がありながらも話題のドラマ「医師たちの恋愛事情」を観ました。予想通り、一般人がいかにも喜びそうな不倫関係やポスト争いとドロドロした事情が映されていました。あのドラマが「サラリーマンたちの恋愛事情」だったら観るか微妙なわけで、やはり医者はある種の特権階級のように認識されているように思えます。
あそこまでは極端ではないですが、病院という狭い世界で暮らしている多忙な専門職で、対峙するのも基本的には目の前にいる人であって、あのような環境から大局観を育むのは容易ではありません。

最近では違う分野と関わりを持つ医者も増えてきましたが、そのような方々はほんの一部です。しかしながら、医療を知るには医療でないものを知る必要があるわけで、外の分野の常識や価値観を持った人が増えたらと思っています。